洋服を買うのが、兎にも角にも嫌い。
流行り廃りに踊らされるのも得意ではない。
ということもありますが、
まだ着られる洋服があるのに、
新たに買うのが単純にモッタイナイ…。
まぁ単純に服にはお金を使いたくないだけですが(笑)
大切に着ていけば、洋服は長持ちをしてくれます。
それだけではありませんよね。
外着としての役目を終えたら部屋着へ。
部屋着としての役目を終えたら雑巾見習いへ。
見習いを終えたら、更なる頑固でしつこい汚れと戦う過酷な部署へ異動となり、文字通りボロボロになって役目を全うし、ようやく寿命を迎えることになる。
感謝しかありません。
* * * *
おにぎりを握るときは、空気を入れるようにフワフワと。海苔を軽く炙って香りがしてきたら、クルリと巻いて。
よし。
鮭・梅・昆布と、義母(以下婆さん)が好きな3種のおにぎりが完成です。
温かいうちに届けてあげよう。
婆さんはなぜか、私が握るおにぎりが大好きで、
「また作ってほしい」とよく駄々をこねます。
おにぎりで元気でいてくれるなら、いつでも何個でも作りますよ。
最近の新たな発見として、
おにぎり以外でも婆さんを結果的に
イキイキとさせる意外な出来事がありました。
* * * *
私には、とても愛着のあるジーパンがあります。
別にビンテージものとか高級なジーパンとか思い出の品というわけでもない、なんでもないジーパン。
しかし、いつだったか息子が「これもう日本じゃ売ってないブランドだよ!」と教えてくれました。
長く愛用しておくもんです笑
そのお気に入りジーパンの右側(お尻)ポケットが
「人様の前で履いていいのかな?」というほどダメージを受けていました。
ポケットの入り口?名称はわからないけど、
そこの真ん中あたりの縫い目が取れて布がデローンとなり、
まるで把手を付けたような状態に破れ、
底の部分は穴があいてしまっています。
(写真を残してないのが悔やまれる)
ここまで痛めつけてしまった原因は、
この右側ポケットにスマホやら財布を入れるクセがあったこと。
今まであまり意識してなかったんだけれど、こんなにダメージを与えていたとは・・・。
ブラックな部署があり社員は病んでいるのに
「我が社は健全でクリーンで真っ白なピッカピカの社風です」と思
い込んでいた社長(私ね)は、あまりの管理不行き届きな能力のなさに、
肩を落とすわけです。
「部署異動(雑巾)してもらうか」
そう社長は決意しそうになるも、良い時代もコロナで仕事がダメになった時代も支えてくれた優秀な人材(ジーパン)。
そしてこれから迎える人生後半戦も共に歩んでいきたいし、そこからの景色を一緒に見せてあげたい。
我が社にはキミが必要だ。
よし!専門家に相談だ!
* * * *
「う〜ん。直せる自信ないかも」
最近、心臓に難があり通院を繰り返していた婆さんがボソっと呟きました。
洋裁の腕に自信がある婆さんはジーパンに顔を近づけて、玄関先でじっくり損傷箇所を確認しています。
折り曲げた肘には、ビニール袋に入れたホカホカのおにぎりがかけられているのがカワイイ笑
「あんまり期待しないでね。ごめんね」
ジーパンを直せるのかどうかも心配だけれども、
婆さんが元気ないことにとても心配な気持ちを抱えたまま、
その日は嫁の実家を後にしました。
それからしばらくジーパンのことを忘れていたころ。
義父の10周忌のため、妻の実家に我々家族と義姉が集まったときのことです。
毎年、義父の命日あたりには妻の実家に集まり、
「ジジ大謝恩感謝祭」として義父を偲ぶという口実で宴会をしています。
私の子供たちも、義父母にも懐いていたので、
大人になった今でも仕事の予定をやりくりし、
毎年参加をしてくれているステキな慣習のひとつ。
そんなときです。
「見て!できたの!!!」
少女のようにはしゃぐ婆さんの両手には例のジーパンが乗せられています。
こ、これは!!!!
把手のようにデローンとなっていた箇所も縫い直され、
穴の空いた箇所には同系色の当て布が施され、穴が塞がれている。
これでまたこの社員(ジーパン)と、人生後半戦を楽しむことができる。
そして何より嬉しいのが、婆さんが元気なこと。
婆さん曰く。
最初は、こんなん直せない!!と諦めていたけど、
絶対直してみせる!!という謎の闘志が生まれたそう。
それが彼女の日常の小さな目標となり、達成した時にはこれまで忘れていたような充実感を得られたといいます。
「やっぱり人様から必要とされるというのはとても大切なことね。下手な薬よりも元気になれちゃうんだもん」
確かにそうなのかもしれない。
「人様から必要とされる。お役にたてている」というのは、
生活に張りや使命感が生まれ、
それを楽しみながら積み上げていくというのは、
ひょっとしたら長寿の秘訣なのかもしれない。
そんな仕事や繋がりをこれから見つけられたらステキな人生後半戦を過ごせそうです。
何よりも意外なカタチで婆さんを元気にすることができてよかった。
そして大人になった私の子供たち(孫)と、
こうして楽しい時間を共有させてあげられることはとても幸せなこと。
そして婆さんは言います。
「またおにぎり食べたい・・・」と。
いつでも何個でも作るさ!
私はスマホに「次の休みにおにぎり」とメモをし、
お尻の右側にスマホを入れようとしたところで改めて、スマホをバッグにしまいました。
おしまい